2012年9月21日金曜日

中庭の遺伝子【パリ】

「オ、シャンゼリゼ」、パリと言えば、シャンゼリゼ通りやグランブールバールのような大通りと、
オペラ座、凱旋門などの通りと通りのノードとなる広場、そして、
それを取り囲む石造の歴史的な街並みの数々が思い起こされますが、
実はパリの都市空間を豊かにしているものの一つに、「中庭」があります。
通りや広場のみならず、これらを構成するための街並みまでもが公共財として
捉えられ、かつ、隣の建物と壁を共有することが認められている中では、
建物は街区や敷地の境界線をなぞるように、沿道や外側一杯に広がって建てられます。
そんななかで、採光や外部空間を考えると、自然と内部に空地(=中庭)ができます。
  
つまり、この中庭は、その地区の街区の形状や敷地割の空間構成に応じて形作られ、
大きな街区の地区には大きな中庭が、短冊状の敷地の並ぶ地区には細長い中庭が
できてゆきます。
歴史的な都市組織(tissue urbain)を大切にするパリでも、戦後の都市開発の動きの中で、
こうした沿道-中庭の空間構成は忘れ去られ、街区の中央に超高層が建てられていました。
そんな中で、建築家たち(クリスチャンドポルザンパルクなど)は、こうした都市組織を下敷き
としながら、現代的な都市空間を創出するための実験的な試みを行ってきています。
その中の一つに、ベルシー地区(Bercy)の再開発があります。
パリの東側、セーヌ川付近は、かつては工業地帯や交通空間として使われていた下町です。
1990年代に再生されたこの地区には、かつてワイン倉庫が建ち並ぶ町はずれでもありました。
(現在ではこうした倉庫などが再生され商業施設として活かされています)。



そして、ワイン倉庫を基にした公園沿いには、適度なリズムの沿道-中庭型集合住宅が並びます。
マスターアーキテクトを中心とした6-7層程度の中庭型集合住宅ですが、上記のような
中庭がもつ潤いを大切にしながらも、新たな街並みや開放性、連続性を獲得するために、
公園側のファサードには、何カ所かの切込みを入れて、中庭を垣間見させるとともに、
それらを数層に一つ、連続的に続くバルコニーを設置して、水平的な連続感も維持するような
デザインコードが設けられ、これを基に、それぞれの街区を建築家が設計しています。


そして、さらに、セーヌ川の対岸(セーヌ左岸)にも、再開発の波は広がっています。
森の緑を移植した中庭を、4冊の本が取り囲むようなミッテラン図書館(ドミニクペロー)
が輝くこのエリアは、Paris Rive Gauche(セーヌ川左岸開発)と呼ばれ、
2000年頃から始まり、現在も進行中の開発が進んでいます。


ちなみに、この中庭は、周囲が再開発で高密度化が進んでいった場合にも、
外部空間が残されるようにという設計意図の基に設けられています。
そして、近年、その予想通りに、図書館の周辺には、住宅ーオフィスの開発が進んでいます。
セーヌ左岸では、ベルシーのような中庭型のデザインコードがあるというよりも、
高層や低層が入り乱れるコンポジション(空間構成)を有していますが、
コの字に囲む住宅の内側に公園が貫入したり、大きな公園を各街区が取り囲むなど、
開発空間と公共空間がともに貫入しあうことで相乗効果を狙っているように思われます。

また、かつての工業・物流空間の面影も所々に残されている点が、現代的な開発です。
倉庫もリノベーションされ、大学として再生されており、新学期を迎える学生でにぎわっています。

 
このように、建物や開発の様式は現代的なものとなりながらも、中庭という
半公共的な空間の遺伝子は、開発にも受け継がれているようです。

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